魚って何を考えているんだろう?
水族館の水槽を泳ぐ魚たちを見て、ふと疑問に思ったことはありませんか?
すぐ逃げてしまう魚やじっとしている魚を見て、
「怖がらせちゃったかな?」
「動きたくないのかな?」
「お気に入りの場所かな?」
なんて考えたこともあるのではないでしょうか。
魚の行動には、さまざまな感情が表れます。
外敵が現れると恐怖を感じ、慣れない環境には不安を感じる。
気になるものには好奇心を隠し切れず、アルコールを摂取すると気が大きくなる…?
あれ?なんか人間の感情と似てない?
僕たちの目の前にいる魚たちは、いったい何を考えているのでしょうか?
今回は「こころの生物学」の研究結果から、魚たちの心理をひも解く一冊を紹介します。
最初に
今回は「魚だって考える」という本をご紹介します。
この本を手に取ったきっかけは「魚の気持ちを理解してコミュニケーションを取りたい」と思ったことです。
言葉が通じない魚とコミュニケーションは、もちろん簡単なことではありません。
しかし「魚が考えていること」を行動から読み取れるようになれば、魚の気持ちを想像するヒントになるのではないでしょうか。
- サカナが何を考えて行動しているか
- サカナの意外な知能やスキル
- 「こころの生物学」研究室の奮闘劇!?
吉田 将之さん
- 広島大学大学院生物圏科学研究科・准教授
- サカナの心への生物心理学的なアプローチに取り組む
- その他著書『メジナ 釣る?科学する?』『動物は何を考えているのか?』など
著者の吉田将之さんは、広島大学の「こころの生物学」研究室で「魚が何かを考える仕組み」を研究されています。
生物心理学の研究と聞くと「難しそうだな…」と感じますよね。
しかし、本書は文章がわかりやすく、下記のように楽しく読みやすい内容です。
- 研究室の学生さんたちとのクスッと笑えるエピソード
- ユニークな方法で楽しみながら研究に奮闘する様子
魚にそれほど興味がなくても、大学の研究室に興味がある学生さんにもおすすめしたい一冊です。
「魚だって考える」のポイントと要約
本書のポイントを整理すると、下記の内容がわかります。
- 魚には感情があり、その感情は魚の行動から紐解ける
- 魚は人間のように好奇心を持つ
- 魚は優れた記憶力を持っている
- 「こころの生物学」研究室は、さまざまな方法で生き物の研究に奮闘してきた
上記の内容は「本書のほんの一部」ではありますが、僕なりの観点で紹介していきます。
魚の行動から感情がわかる
魚は「不安」や「恐怖」を感じます。
不安とは「見えない危険な可能性に怯える感情」
恐怖とは「見える天敵に怯える感情」
たとえば、魚が不安を感じる際の行動には、ゼブラフィッシュを用いた下記の研究結果が示されています。
- 「新しい環境に入れられる」「群れからはぐれる」と不安状態になる
- 不安状態になると「水槽の底でじっとする」「暗がりや物陰に隠れる」
- 群れを見つけると合流する(他種の群れであっても)
ゼブラフィッシュの行動からは、危険な場所や状況下で不安状態になるとわかります。
そして、不安状態に陥ると「目立たない」ことで、危険を回避しようとするわけです。
この行動って「人間が不安を感じたとき」に似ている思いませんか?
人見知りな自分と重なるなぁ…
慣れないパーティーに一人で参加すると不安を感じますよね。
あまり目立ちたくないですし、何となく壁際に立っている姿が思い浮かぶはずです。
周りにいるのはまったく知らない人たちなのに、一斉に移動されると「一人にしないで!」って必死について行きます。
魚と人間は似ている?
魚が不安や恐怖を感じる理由は、常に「捕食者から逃れること」を考えているからです。
多種多様な生き物が生息する環境で生き抜くため、魚の脳は常に身の回りの危険を察知しています。
魚は怖い思いばかりしてるのかな?なんだか可哀想になっちゃうね…
とはいえ、魚の感情はネガティブなものばかりではありません。
魚にはマイナスな感情だけでなく「気になる」「飽きる」といった好奇心に近い感情もあるようです。
キンギョを用いた研究では、以下のような結果が示されています。
- 初めて見る浮きに警戒をする
- 警戒しながら、安全を確かめるため「つつく」行為を繰り返す
- 数回つついた後、安全と判断すると関心を無くす
キンギョは、初めて見る物体に警戒します。
このときの感情は「恐怖」です。
安全な場所に隠れますが、時間の経過とともに恐怖から「好奇心」に変化します。
好奇心といっても根本は「危険かどうか」を気にしているので、つついて確かめるようです。
そして、この研究から魚には記憶力があるとわかります。
- 再度入れられた浮きに再び警戒する
- 「つつく」行為を繰り返すが、徐々に反応が鈍くなる
- 入れ直す回数が増えるにつれて、浮きに反応しなくなる
また入ってきた!今度は危険かも!?
また入ってきた!あぁ…さっきのやつか
…またお前か
魚は危険性を感じるものに警戒します。
しかし、何度も確かめるうちに「危険ではない」と理解します。
そして、危険ではないことがわかると関心を失います。
つまり、飽きてしまいます。
魚の記憶力があれば地図なんていらない
魚の記憶力は、とても優秀です。
そして、その記憶力は「空間把握力」で真価を発揮します。
その根拠は、潮溜まりに生息するハゼの研究で示されています。
- ハゼは潮溜まりに天敵が現れると、別の潮溜まりに陸地を伝って避難する
- 陸地の移動経路を見ると、ハゼが潮溜まりの位置を把握していることがわかる
(おそらく最短ルートで移動している) - 満潮時に潮溜まりになる場所の位置を泳ぎながら記憶している
この結果から、ハゼは生息域の地形を「把握・記憶」しているとわかります。
地図も方位磁石も使わないのにスゴイですよね。
魚には数か所の決まったエサ場があります。
わかりやすく言うと「行きつけの店」です。
そのエサ場は、
- 目印となる岩場
- 水温
- 水流
- 匂い
といった手がかりを頼りに、しっかりと記憶しているようです。
「こころの生物学」研究室の奮闘
魚には考える力や感情、記憶力がある。
とはいえ、冷静に考えると「あたりまえ」だと思いませんか?
生き物って大体そうでしょ。
この「あたりまえ」に思うことを、根拠に基づいて定量化する作業ってメチャクチャ大変なんですよ。
なぜなら、魚とはコミュニケーションがとれないから。
さかなさ~ん。どんな気分ですか~?
なんて声をかけてみても、返事は返ってきません。
では、魚の心理を理解するには、どうすればよいのでしょうか?
「こころの生物学」研究室は、そんな難しいテーマに日々奮闘しているそうです。
本書でも吉田助教授が、研究室の生徒を「上手いこと言いくるめながら(誉め言葉)」楽しく研究する様子が書かれています。
- ボタンで手足を拘束して…
- 水槽の前で鍵盤を叩いて…
- 細胞を数え過ぎて水玉模様が…
…この内容で本当に研究しているのかって?
読めばわかりますよ(笑)
「魚だって考える」を読んだ感想と気づき
僕は水族館で魚を見るたびに思うことがありました。
怖くないから、もっと手前に出てきてよ~。
いつも水槽の奥でじっとしている魚たちに対して、
- どうすれば前に出てきてくれるか
- どうすれば自分のことを怖くないと思ってくれるか
- 何をすれば魚が喜んでくれるか
そんなことを考えながらも、コミュニケーションの方法がわからず解決できませんでした。
本書を読んでも「その答え」が解決できるわけではありません。
しかし「魚の心理を理解するヒント」が得られたような気がします。
魚たちは臆病です。不安を感じると動かず、恐怖を感じると隠れます。
彼らに近づくためには「不安や恐怖の対象ではないよ!」と認識してもらうことが大切です。
- 彼らの天敵が「黒っぽい魚」であれば、黒い服を見た途端に逃げるかもしれません
- 彼らの天敵が「水面から襲ってくる」のであれば、低い姿勢で見るべきなのかもしれません
魚たちが考えていることを想像しながら、改めて行動を観察してみようと思います。
いつか僕らのことを記憶して興味を示してくれたとき、もっと仲良くなれると信じて。
まとめ
最後までご覧いただきありがとうございます。
今回は「魚だって考える」を読んで、感じたことや気になったポイントなどを紹介しました。
最後に、もう一度おさらいしてみます。
- 魚には感情がある。その感情は魚の行動から紐解ける。
- 魚は人間のように好奇心をもつ。
- 魚は優れた記憶力を持っている。
- 「こころの生物学」研究室は、さまざまな方法で生き物の研究に奮闘してきた。
本書は、学術的な内容が参考になるだけではありません。
研究室で奮闘する様子が楽しく紹介された「学生さんでも読みやすくわかりやすい一冊」です。
- 魚はアルコールに酔う
- トビハゼは各方面に気を配る
- スズキだって癒されたい
今回は紹介しませんでしたが、少しだけ魚に親しみを感じてしまうようなエピソードもたくさんありました。
もし興味を持っていただけたなら、ぜひお手に取って読んでみてください!
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