【書評・感想】動物園や水族館の未来を想像してみた『動物園から未来を変える』

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「あなたにとって動物園ってどんな場所ですか?」

taku

可愛い動物を見て癒される「憩いの場」かな?

この質問に対して、下記のような回答が頭に浮かぶのではないでしょうか。

「可愛い動物を見て癒されたい!」
「恋人とデートしたい!」
「子どもに生き物のことを学ばせたい!」

動物園へ行くと可愛い動物を見て癒されることもありますし、自然にふれて学ぶこともあります。

訪れる理由は人それぞれだと思いますが、今や僕たちにとって「なくてはならない場所」といっても過言ではありません。

しかし一方で、こんな考えが浮かぶこともあります。

「飼育される動物たちは幸せなの?」
「学ぶって…具体的に何を?」

動物園の役割が「動物を飼育して、見せるだけ」であれば、それは人間のための娯楽場でしかありません。

そんな場所では、わざわざ遠い場所から動物たちを連れてくることに「疑問」を感じてしまうでしょう。

しかし動物園には、動物たちと自然環境を保全する大切な役割があります。

残念ながらその役割や「動物園の想い」は、僕たち来園者に上手く伝わっていないのかもしれません。

taku

動物園が伝えたいことって何?

動物園は私たちに向けて、いったい何を発信しているのでしょうか?

今回は「ブロンクス動物園」を題材にした、動物園の役割と展示に込めたメッセージをひも解く一冊を紹介します。

目次

最初に

今回は「動物園から未来を変える」という本をご紹介します。

この本を読んだキッカケは「動物たちの見方を変えたい、新たな価値を発見したい」と思ったことです。

動物園では、さまざまな動物が飼育されています。その理由は「可愛いから」だけではないはずです。

動物園が「展示を通して本当に伝えたい事」を理解できれば、動物園に行くことの価値や楽しさを再発見できると感じています。

「動物園から未来を変える」を読んでわかること
  • 動物園が持つ役割、動物や環境のために取り組んでいること
  • 動物園の展示に秘められたメッセージ
  • 動物園の未来のために必要なこと
著者のプロフィール

川端 裕人さん

  • 小説家、ノンフィクション作家
  • アメリカの動物園を多数取材している
  • 日本の動物園関係者との交流も深い
  • その他著書『動物園にできること』など

本田 公夫さん

  • 野生生物保全協会(WCS)所属
  • 展示グラフィックアーツ部門スタジオマネージャ
  • 現役でアメリカの動物園に努めている
  • 若手の動物園関係者にとって「何かよく分からないけどすごい人」

著者の川端裕人さんは、コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いていた時期に「アメリカの動物園」を多数取材されています。

その際に知り合った本田公夫さんは、所属するWCSが運営する「ブロンクス動物園」の展示デザイン担当者です。

ブロンクス動物園は革新的な展示が評価され、世界中の動物園にとってお手本にすべき存在とも言われています。

  • ブロンクス動物園の「市民の憩いの場」を超えた展示
  • 展示に込められた想いと伝えたいメッセージ

動物や環境に興味がある人はもちろんですが、動物園で働きたい学生さんや研修生さんなどにもおすすめしたい一冊です。

「動物園から未来を変える」のポイントと要約

本書のポイントを整理すると、下記の内容がわかります。

  • 動物園が抱える問題
  • 動物園のあるべき姿
  • ブロンクス動物園の展示に込められたメッセージ
  • 動物園から創る未来

これらの内容は「本書のほんの一部」ではありますが、僕なりの観点でご紹介していきます。

動物園が抱える問題

漫然と動物を飼い殺しにしているだけ、ただ動物を見せればいいというだけの動物園には未来がない

動物園から未来を変える

動物園は「動物を見て楽しむ憩いの場」としてのイメージが強いです。

日常生活では出会うことのない動物たちとのふれあいは、刺激的で好奇心をくすぐられます。

しかし、動物たちはどうでしょうか?

彼らにとって動物園は「本来いるはずのない場所」です。

taku

どこで暮らしていたの?誰と暮らしていたの?

彼らが動物園にやって来た背景には、目を背けたくなる現実があるかもしれません。

来園者には「動物たちの幸せ」を願う人も増え、動物園の存在意義が疑問視されるようになりました。

動物を見せるための施設では、動物福祉の観点が不十分です。

動物を健全に飼育するだけではなく、教育的な付加価値が必要となりました。

動物園のあるべき姿

動物たちの幸せを考えると、動物園は不要になるのでしょうか?

その答えは「動物園のあるべき姿」から判断する必要があります。

動物園は展示を通して、来園者にメッセージを届けるべきです。

  • 飼育動物の魅力(生態)を伝え、興味を持ってもらう
  • 野生動物の状況(危機)を伝え、関心を持ってもらう

本書では「動物園は自然体験への門口(ゲートウェイ)であるべきだ」と伝えています。

動物園がさまざまな方法で、自然とふれあう機会を与えてくれることは大きな魅力です。

その結果から「動物を好きになり、自然に興味を持つこと」は、動物園の存在意義につながります。

taku

どのような展示が「自然体験への門口」となるのかな?

ここで、ブロンクス動物園の展示に取り入れられている「2つの定義」を紹介します。

  1. ランドスケープイマージョン:展示レイアウトに自然環境を再現する
  2. 環境エンリッチメント:飼育環境を豊かにすることで動物の行動を活性化する

1つ目のランドスケープイマージョンは、動物が暮らす自然環境を展示レイアウトに再現する手法です。

植物や岩、水の流れなど、自然環境を再現することで「野生」を体感できます。

2つ目の環境エンリッチメントは、動物の健康や行動の活性化のため飼育環境を豊かにする手法です。

動物たちが野生下で見せる行動特性を引き出すため、おもちゃなどの道具を使った工夫が施されます。

taku

どちらも大切だから、両方取り入れるべき?

2つの展示手法は共に大切ですが「自然環境を魅せる」と「飼育環境を豊かにする」は、相反する性質を持っています。

自然界に存在しない人工物は、ランドスケープイマージョンに適していません。

しかし、おもちゃなどの道具は、飼育動物の健康管理に役立つため導入すべきという考えもあります。

ここで重要なことは「どちらを重視するか」ではありません。

どちらの手法が必要かを選ぶ前に、展示テーマ(伝えたいメッセージ)をハッキリと定義することです。

ブロンクス動物園の展示に込められたメッセージ

ブロンクス動物園の展示は世界中の動物園を牽引し、高い評価を得ています。

その秘密は「展示テーマ(メッセージ)をしっかりと伝えるレイアウト」です。

本書では、ブロンクス動物園の「コンゴの森」と「タイガーマウンテン」を紹介しています。

コンゴの森の展示テーマ

「コンゴ盆地の生物多様性を理解して、生き物たちの保全のために何ができるか知る。さらに行動する。」

コンゴの熱帯雨林を再現した「コンゴの森」は人工物を取り除き、野生生物が暮らす美しい自然へ入り込んだかのような没入感を味わえる展示エリアです。

エリア内の展示ショーケースでは「コンゴの自然環境や野生動物が抱える問題」や「WCSの環境保全への取り組み」なども紹介されています。

自然環境の美しさや生物の多様性を体感することで、意識や行動が変わるきっかけになるはずです。

タイガーマウンテンの展示テーマ

「動物園でトラのためにできること」

「タイガーマウンテン」では、動物園が飼育環境にいるトラのために何をしているかを動物福祉の観点で伝えようとしています。

ボール使用したトレーニングは、エリア内が混雑するほどの人気です。

パッと見は遊んでいるように見えますが、特定部位を観察するなどの健康管理に大きく役立っています。

「動物のため」という観点は、野生動物だけでなく飼育動物に対しても向けられているわけですね。

メッセージ

ブロンクス動物園の展示は「動物や環境に興味を持ち、行動を変えてほしい」というメッセージが込められています。

野生動物にとっての大きな脅威は「人間」です。人間は自然環境を破壊し、野生動物の生活を奪う大きな力を持っています。

しかし、その力で自然や動物を護る(まもる)こともできるはずです。

人間の大きすぎる力は、壊すも護るも「あなたの行動次第」だと教えてくれました。

動物園から創る未来

現在は、動物園の来園者が「飼育動物の福祉」を注視する時代です。

ブロンクス動物園は野生動物や環境保全に取り組み、展示を通して来園者へメッセージを発信しています。

では、日本の動物園はどうでしょうか?

結論を先に伝えると、ブロンクス動物園のような展示はあまり広まっていません。

どうやら日本の動物園は、まれに現れるスーパー飼育員の頑張りで支えられているようです。

しかし、動物たちが暮らす自然環境は、動物園で働く飼育担当者が孤軍奮闘したところで維持できません。

taku

何とかならないの…?

動物園の未来のためには、動物たちに関心のある来園者の意識を変える必要があります。

来園者の意識が変化する一番のきっかけは「動物を好きになり、すごいと思うこと」です。

飼育員の「メッセージを込めた展示」を通じて、来園者が「自然を体感し、興味を持つこと」が、結果として動物園の存在価値につながります。

taku

ただ見るだけじゃ足りないんだね。

「目で見る」「頭で理解する」だけでは、行動を変えるほどの強い影響力がありません。

しかし、動物園の展示から伝わるメッセージは、動物や環境への意識を変えられます。

そして、動物たちの未来を変えるポテンシャルがあるはずです。

「動物園から未来を変える」を読んだ感想と気づき

僕は動物園で飼育されている動物を見るたびに思うことがありました。

taku

暇そうだな~。

いつも動かずにじっとしている動物たちに対して、

  • どんな環境で暮らしていたか
  • どんな魅力があるか
  • 野生環境で問題を抱えているか

なんて考えたことは、さすがにありませんでした。

しかし、実は見逃していただけかもしれません。
本書を読んで、少し視野が広がった気がします。

これからは動物だけを見るのではなく、展示レイアウトや解説パネルも注目したいです。

動物園には、さまざまな動物が暮らしています。
動物園での生活に幸せを感じているかどうか、僕には分かりません。

彼らのためにできることは「興味を持ち、背景を知る」ことだと思います。

  • 動物園は、メッセージ性のある展示を増やす
  • 来園者は、メッセージを受け取り意識と行動を変える

動物園と来園者が一緒になって意識と行動を変えることが、動物たちの未来を変える一歩になると信じています。

まとめ|動物園から未来を変える

最後までご覧いただきありがとうございます。

今回は「動物園から未来を変える」を読んで、感じたことや気になったポイントなどをご紹介しました。

最後に、もう一度おさらいしてみます。

「動物園から未来を変える」のまとめ
  • 動物園が抱える問題
    (見て楽しむだけの場ではなくなった)
  • 動物園のあるべき姿
    (動物と環境に興味を持つような展示が必要)
  • ブロンクス動物園が展示に込めたメッセージ
    (動物や環境に興味を持ち、行動を変えてほしい)
  • 動物園から創る未来
    (動物園も来園者も意識の変化が必要)

本書はブロンクス動物園で実際に働いている本田さんへのインタビュー形式で話が進むので「動物園好きや若手飼育員さんにとってためになる一冊」です。

今回は紹介できませんでしたが、ブロンクス動物園の展示を紹介するカラー写真もたくさん掲載されていました。

もし興味を持っていただけましたら、ぜひお手に取ってご一読してみてください!

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